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大阪府・大阪市指定文化財展-大阪の祈り さまざまな美と形-
(H25.10.1更新)

主な展示資料

序章 いにしえの江戸の美を求めて

ベルツが収集した日本の美術品のなかには、ベルツ来日時にはすでに過去の時代となっていた江戸時代以前の各時代の絵画作品も少なからず含まれている。ただし、これらは、必ずしも体系化された作品群を構成しているわけではなく、ベルツ・コレクション全体のなかでは、どちらかといえば、飛び飛びのまだら模様をかたちづくっているに過ぎない。

しかし、それらのなかには、点数こそわずかではあるが、英一蝶や建部巣兆らによる江戸中期の秀作や、谷文晁、大西椿年という特定画派の枠には収まりきらない江戸後期の個性的絵師の優品も含まれており、ベルツ・コレクションの質の高さを語るうえでは見逃すことができない。また、ベルツがこうした江戸期の作品の自らのコレクションに加えた背景には、『日記』の記述からも随所にうかがわれるように、いにしえの江戸文化の残り香を求める心情があったであろうことも指摘できる。

そこで本展では、ベルツの蒐集品と、それを補足する意図から後世、リンデン民族博物館が収蔵をすすめた江戸期の絵画作品のなかから、とりわけ優れた作品を選りすぐり、展覧会全体の序章として紹介することにした。

桜花寛永美人図 建部巣兆筆

桜花寛永美人図 建部巣兆そうちょう

一幅
江戸時代後期 19世紀
縦33.8 横98.4cm
リンデン民族学博物館蔵

 江戸の俳人・巣兆(1761-1814)は、寛政から文化年間にかけて江戸の俳壇で活躍する傍ら、書画もよくした。
絵は谷文晃に学んだと伝えられる。
 本図に描かれる女性は、髪を立兵庫に結い、匹田鹿子ひったかのこの大柄な雪輪模様があしらわれた振袖を着て、細めの帯を締める。その装いは江戸初期の姿を示す。女の視線の先には犬がおり、視線を交わしているかのようだ。髪型や華麗な着物からして遊女であろう。
 この姿は、遊楽の人々を描いた「彦根屏風」から写したものである。「彦根屏風」の制作年代には議論があるが、描かれたのは寛永年間の京都六条三筋町の遊里といわれている。よって女の装いが巣兆の活躍した江戸時代後期の姿ではなく古風なのも当然である。
 画面上部には巣兆の句「一日の仕業ありけりさくら人」および落款「菜翁巣兆画賛」が記される。

群亀戯画 大西椿年
ぐんきぎが おおにしちんねん

巻子
1830年代
縦27.3 横866.0cm
リンデン民族学博物館蔵

 冒頭には「はなし亀」といわれる放生用の亀を描く。竹筒にのせられているのが上方での売られ方。江戸では紐に吊るされて売られていたという。(平亭銀鶏『街之噂』)この亀を買い、放してやると功徳になるとされた。
 続く場面は、話されて自由を得た亀が遊興する戯画となっている。大盃に群がり、酒肴しゅこうを傾け、酔い、踊り、三味線を弾き、歌う亀たちのほか、けんや相撲、書画揮毫きごう、的矢、音曲付きの綱渡りなどに興じる姿も描く。遊興に続いては、土木工事の風景だろうか。車を曳き、地を固め、杭を打つ亀が描かれ、最後は煙草を呑む亀と漂う煙で締めくくられる。
 輪郭線を極力抑え、墨と淡い色面の展開で亀の姿を描いており、四条派の作風を示す。隅の濃淡や擦れ、にじみなどの技を使い、細部にも気を使った表現とする。
 作者は大西椿年(1792-1851)。江戸に四条派を広めた絵師・渡辺南岳につき、後に谷文晃に師事した。
群亀戯画 大西椿年筆

第一章 同時代絵画蒐集家・ベルツの眼

 ここでは、ベルツが蒐集した絵画コレクションのなかでも中核をなす、主にベルツ滞日時に存命であった江戸末期から明治期にかけての画家たちの作品をまとめて紹介する。

その顔ぶれは、どちらかとえば、江戸期以来の伝統画派を守り伝えようとした日本美術協会系の保守的伝統派の画家たちを中心としている。ただし、江戸・東京系にかたよることはなく、京都系の画家の作品も少なくない。いわば、江戸末期から明治期にかけての「日本画」界の縮図の一様相を示しているわけである。ただし、ここで注目しておかなければならないのは、ベルツが蒐集した同時代絵画の作者のすべてが、美術史上の巨匠や当時の流行作家というわけではなく、今日では名前が忘れ去られたようなマイナーな画家も多く含まれており、それでありながら、個々の作品の完成度は、きわめて高いことであろう。

ベルツは妻の花の助けを得ながら、同時代の教養あるドイツ人の視点から、自らの趣味と鑑識眼にかなった作品のみを蒐集していったのであろうが、そこには、たとえばフェノロサによる日本絵画コレクションのような、権威主義に彩られた名品主義の考え方はみられない。此の点こそが、ベルツ・コレクションの大きな特色のひとつなのである。


牡丹孔雀図 中村晩山筆

牡丹孔雀図ぼたんくじゃくず 中村晩山ばんざん

一幅
明治時代 19世紀
リンデン民族学博物館蔵

 晩山(丹蔵)は東京に住み岡本秋暉おかもとしゅうきに師事したとされるが経歴は不詳。岩上で羽を広げて羽繕いをする雄の孔雀と下方にはえさを狙う雌の孔雀との一対を描く。孔雀の体毛は緑青や群青で濃く色鮮やかに、押すの尾羽は茶系色を主に緑青や金泥で華やかに表している。このような色彩の構成や孔雀の体躯に対して頭をやや小さく描く表現は師の秋暉の作風との酷似が認められる。 まち、傍らに大輪の牡丹を添えるのも常套の取合せで画面にはいっそうの典雅さを与えている。牡丹に孔雀図は円山、四条派の絵画でしばしば描かれる。
祝賀図 小林永濯筆

祝賀図 小林永濯えいたく

一幅
明治時代
リンデン民族学博物館蔵

 一時、井伊直弼にも仕えた小林永濯(1843~1890)は、明治に入って新聞挿絵の分野で活躍する一方、写真や洋画を学び、陰影法いんえいほうを日本画に取り入れた独特の作品を残している。本図は浦島太郎など長寿を保った和漢の人物に旭日や鶴を描く。伝統的な画題を西洋的な鮮烈な色彩と写実的な肌の表現で描き上げた、文明開化期ならではの絵画作品。

第二章 工芸王国・ニッポン

 ベルツ・コレクションのいまひとつの特色を挙げるとすれば、それは、江戸時代から明治期にかけての多種多様な工芸品を実に幅ひろく、かつ大量に蒐集していた点であるに違いない。

残念ながら、その多くは第二次世界大戦の折りに失われてしまったと考えられるが、このようなベルツによる日本工芸コレクションが基礎としてあったからこそ、リンデン民族博物館では、ベルツ・コレクションの収蔵以後も、今日にいたるまで、江戸期から明治期にかけての日本の工芸品の蒐集にとりわけ熱意を注いできたわけである。それらの蒐集品のなかには、質が高いものが少なくないばかりか、日本では現存例が少ない、珍しい技法を用いた貴重な作品も多く含まれている。

ここでは、そうしたベルツ・コレクションとベルツの遺志を継いだ以後のリンデン民族学博物館の蒐集活動の歴史を踏まえて、あくまでもベルツの蒐集品を軸に据えつつ、リンデン民族学博物館の日本工芸コレクション全体のなかから、工芸の各ジャンルのうち「印籠・根付」、「染織」、「陶磁」、「金工」、「七宝」の五つの分野にわたる出品作品を選び抜いて、紹介することにする。

七宝群雀図皿

七宝群雀 しっぽうぐんじゃく 図皿

明治時代 19世紀
リンデン民族学博物館蔵

 晩秋の季節に、雀が餌を求めて群れ集まっているさまを描きあらわした飾り皿で、その写生味の優った絵画的な図様表現は、明治期工芸にみられる特質の一傾向をよく示したものとなっている。また、縁飾りには、青海波や七宝繋ぎなどの幾何文様で内部を埋めつくした連弧形の窓を連続させる装飾が施されており、縁周りの内側の絵画的図様を引き締める額縁の役割を果たしているが、この加飾のありようも、明治中期の七宝工芸の特徴のひとつといえる。有線七宝の技法を主としつつも、部分的に無線七宝によるぼかしの表現が効果的に用いられていることから、明治20年代なかば前後の作りではないかと推察される。


鼠 銘正直

ねずみ 正直まさなお

一幅
江戸時代後期 19世紀中葉
リンデン民族学博物館蔵

 蹲る鼠は左前足で耳を掻いている。長い尻尾が緩やかに全身を包み込む。体を丸めた鼠のモチーフは恐らく18世紀後半、京都の根付師に始まるが、先ず思い浮かぶのは伊勢国山田の初代正直である。正直の後継者20世紀までこのモチーフを使い続け、これが一門からの根付美術へのオリジナルな貢献とみなされる。
 鼠は十二支の一番目の動物で、旧暦11月、深夜11時から1時までを意味する。七福神の一人、大黒のお供えでもあり、富や繁盛を象徴する。
色絵金彩紐耳付人物図花瓶

色絵金彩紐耳付人物図花瓶

一式
明治時代 19世紀
リンデン民族学博物館蔵

金の紐で大きな袋を絞りこんでいるような造形の瓶である。紐が丁度、瓶の耳のようになり、口縁部は絞り込まれて、4箇所に襞ができている。このような造形の壺はしばしば薩摩で制作されている。口縁部外側と、胴裾には文様帯があり、胴部には関羽らしき人物や、『三国志演義』にある劉備・関羽・張飛の「桃園の誓い」とおもわれるような場面が描かれている。


竹に雀蒔絵提重

竹に雀蒔絵提重さげじゅう

一式
明治時代
リンデン民族学博物館蔵

徳利を筍とした提重で、重箱の図様は竹や筍、雀をやや浮彫りにして蒔絵で表している。把手も竹風に節をつけている。形が面白い楽しい作品である。
ベルツ・コレクション。



第三章 麗しの国のうるし

 ベルツ・コレクションを核として、今日にいたるまで絶えず蒐集活動を重ねてきたリンデン民族学博物館の日本美術部門のなかでも、質量ともに最も充実した内容を誇っているのが、漆工芸品の数々である。それらの多くは、究極の蒔絵を追い求めた江戸期の漆芸と、その延長線上に展開した明治期の漆工芸という、これまでの一般的なイメージからはおよそかけ離れたような、多種多様な技法と表現に満ちあふれている。その意味では、同館の漆工芸コレクションは、江戸後期から明治時代にかけての漆工芸の技法が、想像以上に多彩な可能性を示していたことを気づかせてくれるものとなっている。だが、これまで、その全貌がひろく知られる機会は、ほとんどなかったのである。

そこで本展では、ベルツの蒐集品にこだわるのではなく、リンデン民族学博物館収蔵の江戸時代から明治期までの漆工芸品の全体像をエッセンスとして公開することにした。また、ここでは、特に選び抜いた漆工芸の名品、優品に加えて、漆芸の名工でもあった柴田是真が描き残した絵画作品もあわせて紹介する。

金魚蒔絵小箱

金魚蒔絵まきえ小箱

一式
明治時代
リンデン民族学博物館蔵

  屋根が二つの皿となり、中央の屋敷部分を開くと、中に小箱が二つ。家の土台部分も収納スペースになっているからくり箱。全体を卵殻塗とし、部分的に文様を蒔絵で表している。トゥルンプフ・コレクション
獣群舞図 河鍋暁斎筆

獣群舞 じゅうぐんぶ図 河鍋暁斎かわなべきょうさい

明治時代
リンデン民族学博物館蔵

 琵琶をつま弾く化け猫を真ん中に、キツネやタヌキ、イノシシたちがそれぞれのいで立ちで踊り浮かれるさまを描く。獣たちを擬人化し、笑いを誘う戯画ぎがの手法は作者の河鍋暁斎(1831~89)が得意としたところ。暁斎は、明治初期に来日していた外国人と交流を持ち、その作品は長らく日本よりも西欧で高く評価されていた。


卵殻塗家形箱

卵殻塗らんかくぬり家形箱

一式
明治時代
リンデン民族学博物館蔵

 卵の殻を漆で接着することにより、本来の漆塗りでは出せない純白の色遣いを取りま ぜた家形のからくり箱。
屋根をはずすと二枚の皿になり、窓のある胴の部分をひらくと小箱がふたつ。白い卵殻の上には、めでたい鶴や松が金色の蒔絵まきえで描かれる。

第四章 懐かしき日本の思い出

 この終章では、リンデン民族学博物館とベルツの生地にあるビーティヒハイム市立博物館に残されたベルツ・コレクションのなかから、河鍋暁斎の絵画作品を厳選して、一堂に紹介する。

河鍋暁斎は、ベルツが滞日中に最も高く評価し、ことのほか愛着を示していた日本画家であり、ベルツは、その作品蒐集に情熱を傾けていたと伝えられている。

また、ここでは、暁斎の絵画作品に加えて、ベルツが日本の足跡を示すゆかりの品々をもあわせて紹介し、本展覧会のしめくくりを飾ることとする。

獣群舞図 河鍋暁斎筆

菊紋附花鳥図花瓶  香川勝廣作

一対
明治38年(1905)
明治天皇・皇后より下賜
ビーティヒハイム市立博物館蔵

  明治38年(1905)6月9日、ベルツは宮中に参内し、帰国の暇乞いをする。この謁見に先立ち、田中光顕宮内大臣より天皇の名義で渡されたのが本作であるという。
  彫金師香川勝廣(1853-1917)は、明治26年(1893年)より天皇の刀装具2件、明治宮殿鳳凰の間の花器1件の制作に携わり、39年に帝室技芸員となった。
本作は当初より下賜品とすべく依頼されたものであろう。


インディアン襲撃図 河鍋暁斎 きょうさい

一幅
明治時代 19世紀
ビーティヒハイム市立博物館蔵

 
インディアン襲撃図 河鍋暁斎筆
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