展示・イベント


2008優秀映画鑑賞会 メロドラマの巨匠・成瀬巳喜男の藝術
※このイベントは終了いたしました。
(H20.8.4更新)
 日常生活の心理の綾を至高の映像表現に昇華させ、世界的巨匠として揺るぎない評価を受ける成瀬巳喜男。
 スタジオの量産システムのなかで活躍し、人生の細部を照らす成熟のまなざしで、日本映画の黄金期に珠玉の名作を次々と生み出していったメロドラマの名匠。代表作『めし』『おかあさん』、傑作『浮雲』、遺作『乱れ雲』を一挙上映!!
2008優秀映画鑑賞会
メロドラマの巨匠・成瀬巳喜男の藝術
主催 大阪歴史博物館、NPO法人コミュニティシネマ大阪、文化庁、東京国立近代美術館フィルムセンター
協力 コミュニティシネマ支援センター
日時 平成20年9月13日(土) 午前11時40分から16時23分
平成20年9月14日(日) 午前11時20分から16時08分
(いずれも開始30分前から開場)
会場 大阪歴史博物館 4階 講堂 交通のご案内
プログラム
9月13日(土)
11:40〜13:17 上映『めし』
13:20〜13:40 「めし」解題
 (大阪ロケした「めし」の撮影場所などを特定しながら、映画の背景を語ります。)
14:20〜16:23 上映『浮雲』
9月14日(日)
11:20〜12:58 上映『おかあさん』
13:00〜13:40 トークショー 上倉庸敬
 (大阪大学大学院文学研究科教授)
14:20〜16:08 上映『乱れ雲』
定員 250名 (当日先着順)
参加費 前売800円
当日券 一般:1,000円/学生・シニア(60歳以上)800円/高校生以下600円

※前売り券は、チケットぴあ、ファミリーマート、サークルK、サンクス(Pコード479-808)、シネ・ヌーヴォ他で好評発売中です。
※チケットは一日券です。入れ替えはありません。
※当日、満員の際は、ご入場できないこともありますので、お早めにご来場ください。
※館内では、指定された場所以外での飲食はご遠慮ください。
お問合せ コミュニティシネマ大阪 TEL:06-6373-1211
ホームページ:http://www.ccosaka.org/
※ご注意−問い合わせ先は大阪歴史博物館ではありません

プログラム詳細

優れた日本映画の数々を、東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵の美しい35ミリプリントで上映します。小津、溝口、黒澤に続く日本映画の巨匠として高く評価されるとともに、メロドラマの第一人者として名高い成瀬巳喜男監督の代表作4本を一挙上映します。戦前から活躍してきた成瀬が、戦後大きく花開いたのは『めし』からでした。大阪を舞台にした本作で、倦怠期の夫婦の心理の綾を巧みに掬い取り、成瀬の成熟した日常的リアリズムを確立しました。そして、日本映画史上に輝く成瀬畢生の傑作『浮雲』、さらには『おかあさん』、そして遺作『乱れ雲』…。いま、成瀬自身の慎ましい生涯の姿に潜むかくも激しい命の声を、私たちはあらためて聞きはじめる!!


  • 成瀬巳喜男監督 略歴
    1905(明治38)年8月20日、東京生まれ。松竹蒲田撮影所に入り、監督デビューは30年の『チャンバラ夫婦』。33年の『君と別れて』『夜ごとの夢』で認められる。35年、PCL(東宝の前身)に移籍。戦後は51年の『めし』を皮切りに『稲妻』(52)、『夫婦』(53)、『浮雲』(55)、『流れる』(56)などの名作を次々と発表した。67年の『乱れ雲』撮影中から体調を崩し、遂に再び起つことなく69年7月2日没。80年代以降、各国の映画祭で特集上映が開催され世界的巨匠となった。
  • トークゲスト 上倉庸敬氏 (大阪大学大学院文学研究科教授)
    1949年、横浜市生まれ。73年、京都大学文学部卒業。大阪大学大学院文学研究科文化表現論講座で美学を担当。NPOコミュニティシネマ大阪代表理事、京都映画祭実行委員など。主要論文:「ルネッサンスとフランス古典主義の美意識」「日本映画における生と死」、他多数。
『めし』

『めし』

1951年/東宝/白黒/スタンダード/97分
原作:林芙美子 監修:川端康成 脚色:井出俊郎、田中澄江 製作:藤本真澄 撮影:玉井正夫 音楽:早坂文雄 美術:中古智
出演:上原謙、原節子、島崎雪子、杉葉子、風見章子、杉村春子、花井蘭子、二本柳寛、小林桂樹、大泉滉、山村聡、中北千枝子、浦辺粂子

 黒澤、溝口、小津に続く“日本の四番目の巨匠”として、今や世界中の映画評論家から熱い視線を受けるに至った成瀬巳喜男監督の代表作に数えられる作品。舞台は、大阪の下町、阪堺電車の「天神ノ森」近くでロケを敢行。当時の大阪の街が、スクリーンで見られるのも貴重である。結婚生活も5年が過ぎ、倦怠期を迎え始めた夫婦。そこに突然、夫の姪が転がり込んできたことから、単調だった二人の暮らしに思いもよらぬ波乱が生じはじめる。美男美女の主演二人が、本作ではともに中年にさしかかり、平凡で退屈な男と所帯やつれした女になったさまを、見事に好演している。原作は林芙美子による未完の新聞連載小説。その結末を含め、脚色を委ねられた田中澄江と井出俊郎の良質な叙情と煥発する才気とが美しく調和し、繊細極まりない成瀬の演出と玉井正夫の撮影のなかに開花している。キネマ旬報ベストテン2位。

『浮雲』

『浮雲』

1955年/東宝/白黒/スタンダード/123分
原作:林芙美子 脚色:水木洋子 製作:藤本真澄 撮影:玉井正夫 照明:石井長四郎 録音:下永尚 音楽:斎藤一郎 美術:中古智
出演:高峰秀子、森雅之、岡田茉莉子、山形勲、中北千枝子、加東大介、千石規子、村上冬樹、大川平八郎

 成瀬は、林芙美子原作の『めし』(51)、『稲妻』(52)、『妻』(53)、また室生犀星の『あにいもうと』(53)、川端康成の『山の音』(54)などの映画化に成功し、〈文芸映画〉〈女性映画〉の第一人者と言われるようになった。この作品は、林文学の最晩年の長編小説を映画化したものであり、戦時中、勤務先の仏印で激しい恋に陥った一組の男女が、戦後の荒廃した日本でその不倫関係を断ち切れない様子を描いたものである。あきらめても裏切られても離れられない二人のやるせなさは、なにかにすがりつかずには生きていけない人間の業の深さを描いた成瀬の代表作といえよう。一人の女への鎮魂歌であり、どうしようもない男女の愛欲の彷徨を、高峰秀子と森雅之が名演し、日本映画史上に輝く成瀬畢生の傑作となった。キネマ旬報ベストテン第1位。また同誌のジャンル別ベストテン「ラブストーリー」部門で堂々日本映画第1位に輝いている。

『おかあさん』

『おかあさん』

1952年/新東宝/白黒/スタンダード/98分
原作:「全国児童綴方集」より 脚色:水木洋子 撮影:鈴木博 照明:佐藤快哉 録音:中井喜八郎 音楽:斎藤一郎 美術:加藤雅俊
出演:田中絹代、香川京子、岡田英次、片山明彦、加東大介、三島雅夫、中北千枝子、三好栄子、本間文子、沢村貞子

 当時、全国の小学生から募集した作文をまとめた「おかあさん」をもとに、女流脚本家の第一人者、水木洋子が脚色。戦災で失ったクリーニング店をようやく再開したのもつかの間、夫は過労で病床に伏し、病弱な長男は息を引き取った。娘二人と幼い甥をかかえて懸命に働く母。そんな生活ぶりを長女の目を通して描いたこの作品は、日本映画のリアリズムの伝統を踏襲したものといえよう。淡々とした生活描写のなかで、母と店を手伝う昔の使用人との噂への反応や、密かに芽生える恋心など、思春期の少女の微妙な感情が、成瀬監督の丁寧で緻密なカットの積み重ねにより描かれ、独自の世界を築き上げている。主演の田中絹代がこの翌年、初めての監督作品『恋文』を演出することになった時、成瀬監督に指導を仰げと助言をしたのは、溝口と小津の両巨匠であった。キネマ旬報ベストテン第7位。海外でも評価された成瀬の隠れた名作。

『乱れ雲』

『乱れ雲』

1967年/東宝/カラー/シネスコ/108分
原作:山田信夫 製作:藤本真澄 撮影:逢沢譲  照明:石井長四郎 録音:藤好昌生 音楽:武満徹 美術:中古智
出演:加山雄三、司葉子、森光子、浜美枝、草笛光子、加東大介、土屋善男、藤木悠、中丸忠雄、中村伸郎、小栗一也

 事故とはいえ車で人をひき殺した青年商社マン、その事故のせいで突然エリート役人の夫を失った女。この二人の微妙に揺れ動く心理を、成瀬巳喜男監督は淡々としたカットを積み重ねることで的確に描き出していく。普通ならば交わることのない二人の関係を、『憎いあンちくしょう』(1962年)などで知られる山田信夫の緻密な脚本を得て、成瀬監督はそれぞれの心の葛藤にまでメスを入れ、内面のドラマへと昇華させていった。そこに横溢しているのは、あっという間に崩れていく人間の生のはかなさであり、死の匂いである。東京から青森に舞台が移り、当初の深い憎しみが徐々に愛情に変わりはじめ、自らの理性と感情の相克に悩むという、難しい役柄を司葉子が好演し、彼女の代表作となった。映画がまだサイレントであった1930年に監督デビューし、その後87本もの作品を世に送った巨匠成瀬監督の遺作にふさわしい秀作である。キネマ旬報ベストテン4位。