鴻池コレクション(服飾)
(H26.1.14更新)
17世紀初頭から大阪において両替商を営んできた鴻池善右衞門家から寄贈された資料は、漆工品、服飾・染織品、十一代善右衞門幸方(ゆきかた)の趣味の品々など、鴻池家の暮らしと文化をものがたる資料群で、総数は386件3,358点に及ぶ。漆工品は、当主の婚礼に用いられた膳椀類や婚礼調度など金蒔絵で鴻池家の定紋を装飾した格調の高い品々が中心である。服飾・染織品は、婚礼用の振袖や威儀を正すために用いられる上下(かみしも)類、七代幸栄(ゆきふさ)ゆかりの素襖袴(すおうばかま)など江戸時代後期の大阪における服飾について考察する上で恰好の資料群である。幸方関係品は、まさに鴻池家の家格がしのばれる第一級の品々で、当時の鴻池家の生活ぶりを考える上で、なくてはならないコレクションとなっている。
服飾
大阪歴史博物館に保管されている鴻池家旧蔵の服飾資料は68件230点、そのほとんどは江戸時代後期の衣料で、内訳は男性用服飾188点、女性用服飾は29点、こども用服飾8点、チョッキなどの洋装品5点も含まれる。本資料群の特徴として第一に挙げるべき点は男性用服飾、特に上下の占める割合が高いことである。(中野朋子)
紺地花七宝文上下(こんじはなしっぽうもんかみしも)
江戸時代後期 本館蔵 鴻池善右衞門氏寄贈
鴻池家の服飾資料群には「上下」関連資料(上衣である「肩衣(かたぎぬ)」と「袴(はかま)」とに分類される)が131点含まれている。鴻池家は多くの大名家から士分を与えられているが故に、身分相応の式礼服を、出入り先に応じて整える必要があったと考えられる。上下に専用する「熨斗目小袖(のしめこそで)」も複数伝来している。茶地松皮菱取りに秋草文刺繍小袖(ちゃじまつかわびしどりにあきくさもんししゅうこそで)
江戸時代後期 本館蔵 鴻池善右衞門氏寄贈
薄茶地の平絹地に白繻子地(しろしゅすじ)を松皮菱形に切り付けした上に緻密な秋草の刺繍を施した小袖である。一見したところでは地味にみえる小袖であるが、じつは八掛(はっかけ)(裾回し(すそまわし))全体から裾袘(すそふき)にまで秋草の刺繍を施している。この刺繍は身に纏った状態ではほんの少し表側にのぞく程度でほとんど見えるものではなく、着用者が裾を捌きながら歩くことで初めて人目にふれるように仕上げられている。白地宝尽くし文摺箔振袖(しろじたからづくしもんすりはくふりそで)
江戸時代後期 本館蔵 鴻池善右衞門氏寄贈
宝尽くし文様の摺箔が圧巻である。その背中心には「背守り」が施されているが、これは「一ツ身(ひとつみ)」「三ツ身(みつみ)」のようなこどもの料では背縫いがないため、背から「魔が入る」ことを嫌って敢えて糸で縫いを施すもの。こども用の料としてはほかに袷の赤地振袖のほか夏用の料も伝来している。